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黒人の日常の歴史を研究する

米国の黒人新聞から毎日記事をハイライトして公開するBlack Quotidianというデジタルプロジェクトがあります。黒人史の研究に重要とされるAtlanta Daily World, Baltimore Afro-American, Chicago Defender, and Philadelphia Tribuneなどから選ばれて公開される記事は極めて日常的でありふれたものばかりですが、新しい発見も多い、とプロジェクトを開始したUniversity of Arizonaで歴史学の教鞭を執るMatt Delmont教授は語ります。今回はBlack Quotidianについて、またこのプロジェクトと歴史新聞をもちいた歴史研究の意味について教授にインタビューしました。


Matt Delmont教授が語るデジタルメディア・プロジェクト「Black Quotidian」と歴史の持つ「込み入った」性質

2016年1月、University of Arizonaで歴史学の教鞭を執るMatt Delmont教授は、アフリカ系アメリカ人の歴史の中の日常風景と日常生活を明らかにするBlack Quotidianを立ち上げました。このウェブサイトはAtlanta Daily World、Baltimore Afro-American、Chicago Defender、Philadelphia Tribuneといった黒人新聞に掲載された過去の記事を取り上げています。

「これらの新聞[ProQuest Black Historical Newspaperコレクションの一部としてデジタル化されている]は20世紀の黒人の歴史と文化を理解するうえで、極めて重要な情報源です。「歴史の中の日常的で平凡な部分に焦点を当てることで、教科書やドキュメンタリー、また黒人歴史月間のイベントでは通常取り上げられることのない人々や出来事が注目され、黒人史の良く知られたテーマに新たな光を当てることができればと考えています。」とDelmont教授は語っています。

Black Quotidianのサイトでは1年間にわたって、毎日、過去の同じ日の新聞に掲載された記事を最低ひとつ取り上げ、短いコメントを付けて公開しました。

研究と教育に新たな視点をもたらすBlack Quotidian

「研究者として自分の研究対象を知り、そこだけに焦点を絞ることは当然のことです。」教授は語ります。「しかし、そこには欠点もあり、その周辺部分、すなわち自分の研究範囲外の人々や出来事を完全に見逃してしまうのです。」

これまでに3冊の本(「Why Busing Failed: Race, Media, and the National Resistance to School Desegregation」(University of California Press, 2016)、「Making Roots: A Nation Captivated」(University of California Press, 2016)、「The Nicest Kids in Town: American Bandstand, Rock ‘n’ Roll, and the Struggle for Civil Rights in Philadelphia」(University of California Press, 2012))を執筆した教授は、研究過程においては極めて高い精度でコンテンツを検索できることが必要不可欠であることを知っています。

ただし、特定のテーマだけに完全に没入していると、偶然の発見に出会えるような経験はあまり望めません。しかし、Black Quotidianのようなプロジェクトにはそれがあります。教授はBlack Quotidianに取り組むなかで、ほんの少しいつもと違うことをするだけで手に入る新たな研究方法に気づいたのです。

「ProQuest Black Historical Newspaperは、まずキーワード検索するのが普通ですが、そうではなく日付によってデータベースを検索してみると、さまざまな方向に研究が進んでいきます。」

このさまざまな方向性が「多くの驚き」をもたらしたと教授は話します。「毎日、非常に興味深いことが何かしら見つかりました。予想もしなかった世界的な出来事についての解釈や知らなかった地域のニュース記事が新聞の一面、広告、編集長への手紙、ソーシャルダンスや地元スポーツチームなどの地域ニュース面から見つかるのです。歴史を専門としているにもかかわらず、私の知らないことがたくさんありました。」

枠にはまらないこの研究方法は、教室で歴史を学ぶ学生の関心を高めたり、冒険的な感覚を教えたりするのにも役立つことが分かりました。

「歴史とは込み入った性質のものであるということを、大学生が理解するのははなかなか難しいことだと思います。」と教授は語ります。

しかしBlack QuotidianとProQuest Black Historical Newspaperを授業で活用することで、歴史とは決まった日付と出来事がすべての静態的な科目だと思っている学生の認識が変わりました。。過去の新聞を調べることにより、歴史とは研究で発見したことを共有して意見交換できる、躍動的な継続的対話だという感覚を養うことができたのです。

「歴史の中で道に迷い、一から新しい考えを積み上げてもよいのだということを学生に知ってほしいのです」と教授はつけ加えました。「教科書にはあるテーマについて知っておくべきすべての情報が書かれていると考えるのではなく、一年生にも新たな視点を生み出すことができると感じてほしいのです。」

進化する黒人史研究

2016年2月にDelmont教授がProQuestのブログでBlack Quotidianを紹介した際、アフリカ系アメリカ人の歴史と文化の研究に生涯を捧げた歴史学者Carter G.Woodsonについて少し触れました。Woodsonの努力により、1926年に黒人歴史週間が初めて実施されています。

このイベントは1976年に公式に黒人歴史月間となりました。

最近の会話の中で、Delmont教授は2008年にSam WineburgとChauncey Monte-Sanoが書いた論文(「Famous Americans: The Changing Pantheon of American Heroes」ProQuest Centralに収録済み)に言及し、米国史上の重要人物に対する学生の理解と認識に黒人歴史月間がどのような影響を及ぼしたかを示しました。この論文は、大統領と大統領夫人を除いて最も有名な米国人10人の名前を挙げるよう高校生に対して質問した調査の結果が書かれています。

教師と校長の予想では、生徒の回答の大半がヒップポップ・アーティストなどポップカルチャーの有名人や有名スポーツ選手などのセレブだろうと思われました。ところがふたを開けてみると、多くの生徒がそうした人物たちの名前を挙げたのは事実ですが、最も多かったのは歴史上の人物で、しかも上位3人はアフリカ系アメリカ人でした。生徒が回答した最も有名なアメリカ人は、Martin Luther King Jr.、Rosa Parks、Harriet Tubmanだったのです。

このような調査結果から、私達はDelmont教授に黒人歴史月間はまだ必要かと問いかけました。もう既に黒人史は米国史の一部になったのではないでしょうか?

「何世代にもわたり、黒人史の中で注目されてきたのはMartin Luther King Jr.やRosa Parksといった偉人達でした」と教授は指摘しました。「今や学生にとって黒人史研究とはそれほど有名ではないけれども米国史に大きく貢献した人物、例えばJohn LewisやShirley Chisholmといった次のレベルの人物を知る機会になっています。そして、黒人史も次のレベルの人物に焦点を当て、地域のアフリカ系アメリカ人の歴史に着目していかなければなりません。」

「歴史の主流から外れた人々は見落とされがちです」と教授は続けました。教授によると、黒人歴史月間と黒人史研究はアフリカ系アメリカ人の歴史の多様な側面と、今まで見過ごされてきた歴史に注目するために必要であり、それがあってこそ「これらの歴史を結び付けて大きな全体像を作る」ことができるのだと言います。

このように、これらの歴史がすべて一緒になったときに初めて米国史という国の歴史ができあがるのです。

「歴史とは過去に起こった大事件を並べたものではありません」と教授はつけ加えました。「歴史とは権力に関連することが多く、また誰がその話を語っているかです。歴史は込み入っていて、同時にいくつもの話が展開しています。それぞれの人の持つ背景や経験によって、歴史との関係は違ったものになるため、私は教室では常に共感が持てるような雰囲気づくりに努めています。そうすることで学生たちは一緒に過去を発見する旅に出ることができるからです。そして、居心地悪く感じることにも出会うのです。」

それでいいのだとDelmont教授は断言します。学生たちが常に同じ意見だとは思っていないし、相手を尊重し、証拠に基づいたものである限り、会話や討論を奨励しているそうです。そして、そういった証拠として、Black Historical Newspaperのような一次資料は非常に重要なのです。

Black Quotidianの次は?

教授はBlack Quotidianを本にする予定はなく、そもそも本にするつもりで作ったのではないということでした。これまでとは異なる、デジタル出版物とは、新しい歴史との関わりを生み出していくものでしょうと述べたうえで、

「学生たちが歴史の中で道に迷い、自分で道を探せるような、圧倒的な内容を持つ資料集であってほしい」と説明しています。

大半の学術論文や歴史書籍は、初めと終わりが明確に決められた直線的な方法で歴史学にアプローチしていますが、Delmont教授はBlack Quotidianを読者がどこからでも入り込めて、そこから元に戻ったり先に進んだり、資料を通じて横方向に進んだり、自分で情報をつなぎ合わせてまとめあげ、歴史に新たな視点を加えたくなるものにしたいと考えています。

歴史を学ぶ学生がこのように没入できる環境を整えるために、教授はすでに始めたことを継続的に改善していこうと計画しています。この1年間でDelmont教授とゲスト寄稿者が掲載した記事は365本に及んでおり、これらがこのアーカイブの基盤となりますが、教授はこれらの記事から明らかになったいくつかのテーマを小論の形でさらに掘り下げています。特に、1930年代と1940年代における女性のスポーツなどのテーマを掘り下げたいと考えており、また新聞の社会面や人物紹介欄で取り上げられた人々に注目しています。

一方、Delmont教授はBlack Quotidianが別の目的、すなわち「学者が終身在職権を得るための出版物として認められる、正式なデジタルプロジェクトを作れる可能性を示す方法として」も役立つと語っています。「学者の世界は今、奇妙な状況になっていて、終身在職権を目指す学者はデジタルプロジェクトを奨励されているのに、それがキャリアアップのための実績として評価されていないのです。」

Black Quotidianは、デジタル時代に学者がキャリアアップするための出版方法として新たな考え方を示すだけでなく、デジタル時代の研究の新たな考え方を示し、新聞などの一次資料が歴史の発見に役立つ貴重な資料であることを新しい形で示すものでもあるのです。

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