沈黙 – 日本のキリスト教とEarly European Books

マーティン・スコセッシ版「沈黙」をご覧になった方も多いと思います。遠藤周作による小説が原作となっていますが、その登場人物はモデルとなった実在の人物がいました。イエズス会出身のカトリック宣教師については、当時の印刷物にも記載がありますがEarly European Booksにもそのような印刷物を当時のイメージのまま収録し、閲覧することができます。


マーティン・スコセッシの最新の映画は、1966年に日本人作家、遠藤周作により発表された小説「沈黙」をベースに作製されました。書簡体で書かれたこの物語は、余り知られていない、17世紀の日本で起こったキリスト教迫害をテーマにしています。スコセッシは実に25年もかけてこの作品を映画化し、これまでの彼の作品に特徴的だった華麗なスタイルの作品とは一線を画する、静観的なトーンに満ちた素晴らしい作品を生み出しました。「クンドゥン」や「最後の誘惑」に共通した点がある一方、その予期できない難解なテーマにより、「沈黙」は全く異なった性質を持った作品といえます。

近世日本史の知識は、北米やヨーロッパの一般的な映画ファンには馴染みがありません。日本におけるキリスト教史についてはなおさらといえるでしょう。キリスト教は、フランシスコ・ザビエルの布教により1549年に日本に初めて伝えられたとされています。フランシスコ・ザビエルは、宗教改革により台頭してきたプロテスタントへの対策のため、ローマカトリック派の修道会により組織されたイエズス会の主要な創設者のメンバーでした。

当初、日本におけるキリスト教への改宗は寛容に受け入れられており、30万人近い日本人が社会的階級を問われることなく改宗したとされています。しかしながら、豊臣秀吉(1585-1591)の時代から徳川時代にかけて、日本におけるキリスト教は脅威にさらされることとなりました。日本の社会階層に大きな影響を与えるという疑念を持たれたキリスト教は17世紀初めに完全に禁止されます。このキリスト教禁止令に続き、1630年に日本は鎖国令を発布し、宗教、文化、商業的にも国交を閉ざした政策を19世紀まで続けることになります。この時代に起こったキリスト教史にも重要な出来事が1597年の長崎の(後に日本二十六聖人と呼ばれるようになる)キリスト教信者の磔の刑です。殉職者には布教で来日していたフランシスコ会司会、日本人のイエズス会信者、平信徒と3人の子供が含まれていました。幕府によるキリスト教信者への暴力的な圧力は日常的となり、信仰心の強い日本人の信者は「隠れキリシタン」として信仰を隠して生活せざるを得なくなります。自身もカトリックの信者であった遠藤は、この歴史的悲劇と、彼自身が経験した日本における宗教に対する不寛容さとヨーロッパでの人種差別を通し、この悲惨な物語を創作するに至りました。

ちょうどこのスコセッシのによる映画が、あまり知られていない歴史について気づかせてくれたように、Early European Booksにも、近世時代のヨーロッパで印刷された様々な種類の印刷物により、多くの気づきをもたらしてくれるという素晴らしい特徴があります。これらの印刷物には近世ヨーロッパと日本についての関係を詳細に記したものも収録しており、そのほとんどはフランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France)とオランダ国立図書館(Koninklijke Bibliotheek)に所蔵されていた貴重書です。歴史書や旅行体験記をはじめ、外交や貿易に関する様々なタイトルが収録されています。例えば、オランダ国立図書館からはオランダの東インド会社と日本の天皇との外交関係について書かれたアルノルドゥス・モンタヌスによる「東インド会社遣日使節紀行(1669)」(Arnoldus Montanus’ Gedenkwaerdige gesantschappen der Oost-Indische Maetschappy, 1669)、フランス国立図書館からは、ローマ教皇に使節団を送った大名、伊達政宗のキリスト教への改宗について書かれたConversion merveilleuse à la foy catholique, apostolique et romaine de Idate Masamune grand et puissant roy de Voxu, à l’Empire du Jappon (1616)などが挙げられます。タイトルから分かるとおり、これらは日本のキリスト教に関連する内容の書籍で、前述した26人の殉教者について、また、彼らが後に聖人の列に加えられた経緯など、Polycarpe Du Fay’s La Béatification des premiers martyrs du Jappon (1628)をはじめ、複数の記録を収録されています(イラスト参照)。さらに、遠藤周作の小説の登場人物のモデルとなったイエズス会修道士の実際の書簡の印刷版などを見ることが可能です。

スコセッシは、輸入品にキリスト教信者が共感するような宗教的シンボルがまぎれていないかどうか厳しく検査する当時の日本の税関のシーンを通し、カトリックの儀式で使われる宗教的なアイテムを崇拝の対象をとして描いています。聖書の複写も、ヨーロッパ人の宣教師が出会う隠れキリシタンのコミュニティでも神聖なものとして表現されていました。時代が進むにつれ、現在Early European Booksで見ることができるようになった前述の印刷物もまた、21世紀に生きる私たちが共感するにはいささか想像を超えた、ほとんど忘れ去られていた歴史と、信仰と文化の残酷な対立、そしてその対立に囚われた人々の人生について、静かにしかし雄弁に語る、信仰を裏づける神聖な史料となったといえるでしょう。


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