世界で最初のマスメディア主導の革命?

活版印刷技術の影響力と宗教革命における役割を調べる

グーテンベルクの発明した可動式の印刷機が15世紀半ばのマルティン・ルターの宗教改革を成功させたのか。

多くの研究者が反体制的な聖職者がヨーロッパの印刷産業の出現による直接的な恩恵を受け、反対意見を広く普及させたとしています。これらを指摘する研究者に、St Andrews Universityの教授で、Universal Short Title Catalog (USTC)のディレクターでもあるAndrew Pettegreeがいます。

Pettegree教授はケーススタディで初期印刷書籍とその電子化の研究におけるチャレンジについて書いており、またWashington Postで下記のように評された本、Brand Lutherを出版しています。

英国史の研究者Andres Pettegreeは、世界初となるマスメディア主導の革命で達成したLutherの思想とその運動における彼の主な役割という、重要ながらこれまで余り評価されてこなかった視点を明らかにした。Lutherはキリスト教の信仰の解釈を変えただけではなく、印刷機という新しいコミュニケーション技術の革新的な利用と操作で彼の描く理想を如何に共有すれば良いのかを発見したのである。
「印刷はMartin Lutherの創造に欠かせない要素だったが、Lutherはまたドイツの印刷産業をも形成したのだ。Luther以後、印刷と公的なコミュニケーションは明らかに変化したのである。」とPettegreeは書いている。

これを踏まえ、このブログでは宗教改革と印刷産業の出現との関連性について、またヨーロッパ各国に広く広がった宗教改革に影響を与えた当時の書籍についてご紹介しましょう。

西欧キリスト教初期の意見相違と宗教改革500周年

1517年10月31日はMartin Luther (1483-1546)が95か条の論題をヴィッテンベルクの城教会の門扉に貼りだしたとされる日です。

張りだしは当時頻繁にあったことで、教会の門扉は日常的に掲示板として教会と大学のために開放されていました。また、Lutherの論題で書かれていたメッセージは、贖宥状を売るという、全ての教会で行われていた宗教的慣習への反対意見は議論は呼びましたが、前例がなかったわけではありませんでした。

それにも関わらず、Lutherが取った行動の当時の背景とそのタイミングは西洋のキリスト教に修復することのできない亀裂を生じさせるのには十分でした。また、Luther派の教会だけでなく、現在のヨーロッパ、並びに世界に広がっていく沢山のプロテスタント派教会が設立されるきっかけともなりました。

もちろんこれ以前にも教会や教派間に紛争が起こることはありました。1054年に起こった大分裂はローマカトリックと東方正教会に分裂する大きな宗教分裂として知られ、また1378-1417の西方教会大分裂はカトリック教会が正統な教皇の座を巡って起こった紛争でした。Lutherによる宗教改革ですら、イギリス人の聖職者、John Wycliffe (1320s-1384)やのちに異端児として火あぶりの刑に処せられるCzech Jan Hus (1369-1415)などの改革的な運動が前例としてあったため、予想可能なものでした。

しかし、これらの前例を作った人物の影響力をはるかに越えて、Lutherによるインパクトは拡大し、そして決定的となったのです。

宗教改革と印刷産業

Lutherの95か条の論題は教会の門扉に貼りだされただけではなく、その後パンフレットとして印刷されヨーロッパ各地に広がりました。印刷された言葉の力なくしてLutherが権威という確立されたチャンネルを越え、彼のメッセージに賛同する沢山の聴衆を急速に得られたとは考えにくいでしょう。

しかしLutherのミッションがグーテンベルクの発明によって促進されると同様に、彼と彼の賛同派と対立派は、学者と聖職者しか顧客ならない小さな市場に頼っていた印刷産業に活気と拡大をもたらしました。もともとラテン語で出版されたLutherの95か条の論題は、ドイツ語やその他のヨーロッパ言語に翻訳されるとともに広く注目されるようになったのです。

これは単なる始まりに過ぎませんでした。1518年、LutherはEynn Sermon von dem Ablasz und Gnade (贖宥状と恩寵についての説教)と題する、彼がドイツ語で書いた教会区の信徒に直接呼びかける内容のパンフレットを出版しました。この説教は大成功を収め、初版から1年を経ずに14刷りを数え、それまでラテン語でなされてきたどの学説的な告発よりもLutherの名を有名にし、多様な読者層に訴えたのです。

その後もLutherはラテン語で沢山の書を記しましたが、ルター派の教会設立を実現させたのは彼のドイツ語による書だったことは確かです。彼の書の大きな成功は同時に、広い読書層の発見へとつながり、また常に不安定だった印刷・出版業に新しい命とアイディアを吹き込んだのでした。

ヨーロッパの宗教改革が与えた影響を調べる

近世時代の宗教にまつわる沢山の資料が現代でも利用可能となっています。これらの資料は主にイタリアのBiblioteca Nazionale Centrale di FirenzeやコペンハーゲンのKongelige Bibliotek、ハーグのKoninklijke Bibliotheek、そしてロンドンのWellcome Libraryに所蔵されています。

ProQuestのEarly European Booksはこれらの図書館と提携し、通常は図書館でしか閲覧できないこれらの資料を電子化し、アクセスをご提供するものです。

2,200件以上の資料で構成されるEarly European Books Collection 11は大変めずらしく、好奇心を刺激するような資料が豊富に収録されていますが、最も特徴的なものはヨーロッパに広がった宗教改革の影響です。

Collection 11では近世時代のヨーロッパ各地で発展した印刷産業を物語る様々な資料を調査することが可能です。また、Lutherの宗教改革や対抗宗教改革など、複雑な文化的背景も明らかにします。

Early European Books Collection 11のハイライト

  • Kongelige Bibliotek(コペンハーゲン)

シェラン島の聖職者Peder TidemandによるLutherのHauspostille (1542)のデンマーク語翻訳。それにも関わらず、これらデンマーク語の所蔵は、時にシンプルに言語上の違いが原因となることもありましたが、Lutherの強い影響力が及んでいるとはいえ、国内の伝統や地方性によって論争を変えてしまうことを示しています。さらに、collection 11に選定されたコレクションは、既成の秩序への変化によってもたらされる深刻な不和や、キリスト教の終末論的な考え方や古い信仰に対する新しい正統性を求める切迫感を反映したものになっています。

  • Koninklijke Bibliotheek(ハーグ)

ジュネーブを拠点に宗教改革で活躍したフランス人の神学者Jean Calvin (1509-1564)による著作を収録します。CalvinはLutherのように現在まで繁栄している教会を創設した人物です。宗教改革により明らかにされた信仰の違いは、キリスト教神秘主義者の新しい世代にももたらされましたが、その影響力はそれほど明らかにされてはいません。

これらのなかには、ボヘミア出身のルター派で神秘主義者で独学で靴職人になり、その神秘主義的著作内容で当時から異端とされながらも全ての層の社会から注目され、死後にはお守り的なシンボルとして沢山の人々に知られるようになるルター派の独学の靴職人Jakob Böhme (1575-1624)も含まれています。Koninklijke BibliotheekからのセレクションにはBöhmeによる最も有名な著作でキリスト教的観点から`doctrine of signatures(特徴説)`を再構成した、De Signatura Rerumの1682年版をはじめ、彼によるテキストが収録されています。

またKoninklijke BibliotheekからのコレクションにはL’Antechrist découvert (1681)並びに17世紀のフランドル地方の神秘主義者、Antoinette Bourignon de la Porteによる著作セレクションを収録しています。Antoinette Bourignon de la Porteは世界の終わりと「新のキリスト教者」によるアイランドコロニーを作ることを宣言し、彼女自身が受けたカトリックの教養を否定した人物です。Bourignonが目指した社会は失敗に終わりましたが、論争を引き起こした彼女のアイディアは次世紀の人々にも興味を与え続けるものとなりました。

  • Wellcome Library(ロンドン)

カトリックからルター派に改宗したドイツ人の神学者Valentin Weigel (1533-1588)による著作を収録しています。彼の著作は現在、主にキリスト教の神智学の発展と関連したものとなっています。Collection 11に収録されるDer güldene GriffはWellcome Libraryに所蔵される1613年版のものです。

また同様に、オランダ人の彫刻家、Jan Luyken’s (1649-1712)はTheatre des martyrsで、キリストの時代から彼が生存していた時代の宗教迫害と殉教の陰惨なシーンをフルページで描いています。Luykenの視覚的に表現された恐怖は、ヨーロッパ史の近世時代を残虐な時代として印象づけ、あからさまに言ってしまえば、宗教派閥の結果により新しくもたらされたものがこの残虐性の極致とも言えるでしょう。

「[ProQuest Early European Books]は、近世時代の経済、社会、政治、宗教と文字文化に関する私たちの理解に驚くべきインパクトをもたらすリソースです。」– Prof. Andrew Pettegree

ProQuest Early European Booksならびに関連するリソース、そして研究への利用についての詳細な情報はこちらからご確認ください。またProf. Andrew Pettegreeによるケーススタディもダウンロードしてご確認いただけます。

Source:
Woodard, C. (2015, Dec 18). The power of luther’s printing press (posted 2015-12-18 17:57:02). The Washington Post

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