ローマの休日:映画とファッションアイコンの登場

アメリカ映画への初出演で無名のオードリー・ヘップバーンが生み出した「女性の新しい理想像」

1953年9月3日に公開された「ローマの休日」(Roman Holiday)は、ハンサムなグレゴリー・ペックと当時まだ無名だったオードリー・ヘプバーンが主演の古典的なロマンチックコメディです。当初はペックの単独主演映画として宣伝する予定でしたが、撮影が半分終わるころ、ペックが監督にヘプバーンとの共同主演として宣伝するよう要望したと言われています。

ヘプバーンを見たペックは、彼女が新しいスターになると確信しました。

ペックの目は確かでした。ヘプバーンは密かに宮殿を逃げ出してローマで自由な1日を満喫する王女を演じて、アカデミー賞の主演女優賞を受賞しました。

しかし、Vogue誌によると、初出演したアメリカ映画で「女性の新たな理想像を体現」することになろうとは誰も予想しなかったそうです。

ヘプバーンが映画とファッションのアイコンとして永続的評価を獲得し、60年以上にわたり女性の魅力とエレガンスの基準であり続けようとは、誰が予想できたでしょうか?

オードリー・ヘプバーンが戦後の美の基準を打ち立て、今でも人々を魅惑し続けるようになった理由をリソースから探してみましょう。

グラマー女優の対極
Gaylar Studlarは著書「Precocious Charms: Stars Performing Girlhood in Classical Hollywood Cinema」の中で、ヘプバーンがアメリカ映画に初めて出演した時、彼女は「1950年代のアメリカの文化や映画で理想とされた身体つきではなかった」と書いています。むしろ、当時圧倒的な人気を誇ったマリリン・モンロー、エリザベス・テイラー、ジェーン・ラッセルなど「超セクシー」な「グラマー女優」の対極でした。これとは対照的な平らな胸とスリムなヒップのヘプバーンが「ローマの休日」で演じた、世間知らずの若い王女は、もっと慎ましやかな、迷子のような雰囲気を醸し出していました。

「オードリー・ヘプバーンがローマの休日でスターになった時には、もう10代ではなかった。(中略)しかし、(彼女は)まだ性的経験のない10代の少女を演じた」」とStudlarは指摘しています。

この映画が公開されると、マスコミや観客はそうした彼女の姿に魅せられました。The New York Timesはヘプバーンの演じたアン王女を「ほっそりとした妖精のような哀愁を帯びた美しさがあり、それでいて威厳と子供のような無邪気さがある」と評し、当時、また現在もヘプバーンの特長としてよく使われる言葉で評しています。そして、この人気がハリウッドの美の新時代の幕開けになったと1954年11月号のVogueは書いています。

不死鳥が灰の中から新たに蘇るのはいつもドラマチックな瞬間である。「若くして美しく死んだ女王」は新たな姿で生まれ変わり、新たな言葉で称賛されるものだ。戦後、女性の新たな理想像が生まれることはないと悲観論者が予想する中でさえ、本物の実存するガラテイアがオードリー・ヘプバーンという人間として彫り出されつつあった。

「ヘプバーンの容姿は現代の精神を体現しているからこそ人気があることは疑いようがない」とVogue誌は述べ、ヘプバーンを「子供のような頭(短髪で猿のような前髪を垂らしたココナッツのように小さい頭)」が「長く、驚くほどほっそりとしたまっすぐな首」の上に乗っていると評しています。

これはおかしなイメージですが、かわいらしくて気まぐれな様子をよく捉えており、暗くざらついた戦争体験後の時代にはこういうものは不足していたようです。ヘプバーンのような容姿の人は、他にはいませんでした。ヘプバーンは天真爛漫で自由で、現代的だったにもかかわらず、気品が感じられました。「子供のような頭」というおかしな形容を埋め合わせるのが、彼女の最大の特長である白鳥のようにエレガントな首に対する言及です。実はヘプバーンはバレエが踊れたため、生まれつきの気品は別にしても、「背を特に高く見せるような」姿勢を保つことができました。

アメリカ映画に登場したヘプバーンは、戦争に疲れたアメリカ人が渇望していたものをもたらしました。それは新しいスターと新たな始まりです。

「デザイナーの夢」
ヘプバーンは映画スターになると同時にファッション界のスターとなりました。質素な時代が続いていましたが、Studlarが指摘するように、戦後1950年代になるとオートクチュール業界が息を吹き返しました。戦時中の実用一辺倒の婦人服に代わって、可愛らしいディテール、流れるように優美な生地、若々しくてロマンチックなスタイルが登場しました。そして、ハリウッドの衣装デザイナーはパリ発のハイファッションのルックを好みました。

パラマウント映画の有名なファッションデザイナー、イーデス・ヘッドは、ヘプバーンは「デザイナーの夢」だったとLos Angeles Timesに書いています。ヘプバーンを初めて見た時の印象は、「さわやかで輝いている人‐ウィンザー公爵夫人のような落ち着きのある少女」で、「スタイルの良さと美しさから、デザイナーを幸せにするために生れて来た女性であることがすぐに分かった」と書いています。

ヘプバーンはHeadに協力し、「ローマの休日」の衣装のスケッチに自らメモを書き、ヘッドは「(ヘプバーンを)取り澄ましたか弱い王女から、ローマの街にいる好奇心いっぱいの若い女性に完全に変身させる」衣装を作りました。ヘプバーンが当時の典型的なスターの対極であったように、「ローマの休日」も伝統的なおとぎ話の対極というべき作品で、普通になる自由を熱望した、強い自立心を持つ王女を描きました。

私たちの心に刻まれたイメージは、シンプルな白シャツを着た王女がお忍びで、袖をまくりあげ、首に巻いたスカーフを風にたなびかせて、ベスパでローマ市内を楽しそうに走り回る姿です。

この映画を観た女性客は、自分たちにも真似できる分かりやすいファッションを捉えました。「紳士は金髪がお好き」(Gentlemen Prefer Blondes)のマリリン・モンローのようなドレスを着て歩きまわるのは、ふさわしくないだけでなく、たいていの場合は不可能でしたが、ヘプバーンが身に着けていた幅広のベルトとローヒールのサンダルは実生活ですぐに真似ることができました。

「ローマの休日」の衣装デザインはオートクチュールハイファッションの世界をも虜にし、若々しいシンプルさがもてはやされ、少女らしい大胆さが好まれました。10年近く続いた質素でゆったりとした服に代わり、ハイウエストのサーキュラースカート、身体にフィットしたウエストライン、周到なアクセサリーが称賛されるようになりました。Women’s Wear Dailyは「ヘプバーンの長袖とロングトルソー」を絶賛し、彼女が被った帽子を「映画の最初に出てくる、ぴったりとフィットしたアンティークシルクの巻き飾りがイタリア風の髪型を引き立てている」と好意的に説明しています。

これらのスタイルが評価され、ヘッドは衣装デザイン賞でオスカーを受賞し、ヘプバーンのファッションの達人としての永遠のイメージが確立したのです。

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オードリー・ヘプバーンとハリウッドのファッションをリサーチするのにお勧めのリソース
Ebook Central

  • Jorgensen, J. (2010). Edith head: the fifty-year career of hollywood’s greatest costume designer
  • Knight, T. (2013). Audrey hepburn: in the movies
  • Leese, E. (1991). Costume design in the movies: an illustrated guide to the work of 157 great designer

Women’s Magazine Archive
米国女性史で最も注目すべき実例の一部は教科書や百科事典では見つからず、当時の消費者向け人気雑誌の艶やかなページに描かれています。ProQuestは数十年分の女性雑誌の表紙から裏表紙までの全ページを広告、論説、画像も含めてすべてデジタル化し、学術研究や一般向けに提供しています。

ProQuest Dissertations and Theses

  • Hannon, L. B. (2012). The “Stylish battle” world war II and clothing design restrictions in los angeles (Order No. 3550615). ProQuest Dissertations & Theses Globalに収録(1286752522).
  • HIRSCH, V. A.(1973). Edith Head, Film Costume Designer(Order No. 7506194). ProQuest Dissertations & Theses Globalに収録(302669927).
  • Moseley, R.(2000). Trousers and tiaras: Growing up with audrey hepburn (BL)(Order No. U128647). ProQuest Dissertations & Theses Globalに収録(301582624).
  • Taylor, D. A.(1997). Fair lady, huckleberry friend: Femininity and freedom in the image of audrey hepburn, 1953-1967(Order No. 9736644). ProQuest Dissertations & Theses Globalに収録(304386165).

参考文献

画像:予告編より(ライセンス情報) : http://web.archive.org/web/20080321033709/http://www.sabucat.com/?pg=copyright 並びに  http://www.creativeclearance.com/guidelines.html#D2 (Roman Holiday trailer) [Public domain], Wikimedia Commonsより


 

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